市岡先生は、「国際社会学」あるいは「多文化社会論」などの多様なアイデンティティを持つ人々がどのように共生していけるのかを考えることを専門としている先生です。
(トップの写真は、「食を通じた宗教間交流(Inter-Religious Organisationのフェイスブックのサイトから)」)
前職の関係でシンガポールを拠点とし、東南アジアの国々を研究のフィールドとしていました。現在でも現地を訪れており、現地のローカルフードの食べ歩きに深い関心があります。2週間滞在して1日5食食べても食べたいものをすべて食べきれず、悔しい思いをして帰国するというお話もありました。そんな先生からシンガポールという国をふまえた「食」についてお話を伺いました。
シンガポールの国民は主にマレー系、中華系、インド系の三大民族から構成されています。中でも現在では、中華系の人々が全体の74%を占めています。
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民族の種類も多く、宗教も多種(仏教、道教、キリスト教、ユダヤ教、イスラーム教、ヒンドゥー教、シーク教、ゾロアスター教、ジャイナ教、バハイ教等)あります。多民族×多宗教国家ですから、ささいなトラブルが紛争にもつながりかねないという懸念もありますが、国が人々の交流を重要視し、「一緒にご飯を食べる」ことで日々交流を図り、政府もこれを強く推奨しています。そして、重要なことは交流の際にお互いの宗教について干渉しないことです。多民族多宗教の人々が共通して食べることが可能な”ドリアンパーティー”が定期的に開かれ、交流を図っているというお話もありました。
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そんな「食」が国民の親睦を深めるのに重要なシンガポールには、人々が住む各団地に一つのホーカーセンター(屋台村)があります。2020年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。人々は、そこで毎日のように食事をとります。朝・夕に食べに行くという家庭も少なくありません。多種の食事が提供される屋台が並び、各宗教に応じて自分が食べたい料理を選ぶことが可能なつくりになっているとのことです。それぞれ違うご飯を食べるので「個食」が懸念されますが、この国で重要視しているのは、同じ食卓でコミュニケーションをとりながら一緒に食べることだそうです。だからこそ、利用者は野菜不足も問題となっており、健康増進のための食という観点では課題が残っています。
具体的にシンガポールを象徴している食事についても伺いました。“フィッシュヘッドカリー”という食事があります。このメニューは、インド系×中華系の調理法がミングル(=混ざる、一緒になる)されており、単一民族を超えた象徴的な料理であり、これがシンガポール料理の特徴であるとともに宗教間の食の交流を図る事が出来ます。
「シンガポール美的アジア食堂(小学館)」より
以上のように「食」を通じた交流が国民の親睦を深めるのに重要であることは、今回市岡先生のインタビューを通して初めて知ったことであり、新鮮なお話をいただきました。ちなみに先生がお薦めするシンガポールのローカルフードは、“ホッケンミー(海鮮焼きそば)”、“チキンライス(蒸した鶏)”、“ラクサ(スパイスとココナッツミルクが入ったスープ麺)”だそうです。
「シンガポール美的アジア食堂(小学館)」より
他者を認めるための軸に「食」がある、そしてそれが国を支える手段となっている点は非常に興味深いお話でした。