西田先生は、アスレティックトレーナー(AT)科目担当の教員として2022年度本学スポーツ健康科学部スポーツ健康科学科に着任されました。
今回は西田先生がアスレティックトレーナー(AT)になった経緯や、これまでのご経験について食を交えながらお話を聞きました。
親族に医療従事者が多いことがATという仕事の出会いに関係しています。
高校に入るまでは医師になりたいと思っていました。一方で、高校生活、部活も頑張りたいし、その時にしかできないこともしたい!という考えでした。とはいえ、勉強が嫌いというわけではなく、「生物学」と「保健体育」が好きで、それがうまくマッチする職業の一つにATという職業があることを高校時代に知りました。高校時代は、「生物学」の成績が良く、好きなことは頑張れる性格でした。さらに、周りの人をサポートして支えることがやりがいでした。こういった自身の特性は、振り返ればATという職業に向いていたのかなと思います。
今までサポートしてきたアスリートの中でもサポート方法が難しく、印象に残っているのは”ジョッキー(競走馬に騎乗する人)”です。
ジョッキーは、決められた体重上限があるので体重管理をしつつ、体重のみならず体組成が重要です。つまり、必要量の骨格筋量をつけることが求められます。体重管理の失敗は、最悪の場合騎乗停止(アスリートとして活動できない状態)になるため、ATの立場としても食事のケアをする必要がありました。ジョッキーは生活が不規則です。馬の調教(トレーニング)は、明け方から始まります。そのため、ジョッキーはスケジュール上、朝食を摂ることができない場合もあります。手軽に空腹を満たすために菓子パンをちょっと頬張りながらトレーニング、みたいなこともあると聞きました。馬に乗って調教する運動は、エネルギー消費量をかなり消耗するトレーニングなので1食を逃すことは健康や運動パフォーマンスを維持するためにもエネルギー不足や栄養バランスの観点で望ましくないことです。そのため、ATの立場としては、「夕食で必要なものはしっかり補って食べようね」等の声掛けをしていました。また、「筋肉を落とさない」ためにたんぱく質が大切と言う考え方についてジョッキーにその知識がなかったので、「たんぱく質をとろう」ということでなく、具体的に「肉を食べよう」と声かけをしました。特に私のサポートしたジョッキーは、体重制限を意識してなのか、食べることが好きではないアスリートでした。かなり偏食(栄養バランスが取れていない)と記憶しています。そういった選手でも無理なくできる体づくりは必要なので、トレーニング中も食べ物の好き嫌いやよく行くスーパー、自宅近くの飲食店などの話をしながら、選手自身が普段の行動範囲で意識を変えれば気をつけられそうなことがないか等、一緒に考えていました。ATがやるべき仕事の一つに体組成計を使って体脂肪率や体重のケアがあります。この知識は食育サポートをするのに大切かもしれません。前述のジョッキーに対しては、定期的に体組成を計測し、トレーニング内容や食事内容と照らし合わせながら簡単なフィードバックとカウンセリングをしていました。チームサポートの際も、体組成測定の結果やその選手の活動量を理論的に計算し、1日に摂取すべき必要なエネルギー摂取量の計算について話をしたりはします。アスリートの競技特性を踏まえたPFCバランスを考えるべきだという指導をしたこともあります。こういう観点からATはスポーツ栄養学の基本的な知識は絶対に必要な局面が多い仕事と言えるかもしれません。しかし、具体的な献立のアイディア等は私の立場でサポートする内容ではありません。
ATの立場として、アスリートがケガ予防のためにすべき食事方法にバランスよく食べるということは基本としてありますが、それ以外に食事を摂取するタイミングも大切です。いつ何を食べるかは、大事です。炭水化物の中でも運動前に摂った方が良いもの、どのタイミングで糖質を取っておけば効率よくエネルギーに換わりやすいか、運動後にプロテインを飲む時は同時に炭水化物も摂れば体に取込まれる効率があがるよ、というスポーツ栄養学的な話です。この理論を踏まえて実践してみたことがあります。アメフト部サポートをした際にプロテインにブドウ糖を投入してそれを飲ませたこともありました。味は・・・。「体づくりをするために原料となるプロテインだけを摂ればいいわけじゃないぞ!」っていうのは結構アドバイスしていました。
こう振り返るとATという立場上、具体的な献立のアイディアは提供できないものの、食育やスポーツ栄養学の知識はサポートするために大切ですね。実際、選手たちは食事に関心が強いヒトが多いです。特に増量が必要なアメフト部に所属する新入生は競技力向上のためにも体を大きくしなきゃいけないミッションがありました。どうやったら体を大きくすることができるか?と選手たち自身が自分に合うやり方を情報入手し、試行錯誤し、必死に模索していました。そういった積極的な姿勢を示す選手には、自身がATとしてサポートするよりも、選手たち自身が仲間で情報を共有したりして自分に合う方法を考えていました。
AT活動の中でのやりがいは、選手の悩んでいること、うまくいかないことをコミュニケーションをとおして共有し、彼らが納得する適切な回答を一緒に見つけられた時に感じます。おそらくATの仕事で想像するのは、テーピングとかトレーニング指導などの技術的な部分が目立つと思います。しかし、ATになってみるとAT自身が持っているスキルを選手に還元するだけでは本当にこの仕事のおもしろさは見いだせません。頑張る選手たちと一緒に高い目標に向かって一生懸命やるのがやりがいであり、すごく楽しいと感じる瞬間です。ATはトレーナーとして携わる全てのことをコーディネートするのがメインの仕事です。選手生命を預かっているという責任もあります。これからATを目指す方々には、きらびやかなに見える世界の裏では、黒子となり裏方でサポートに徹する多くの時間があるということは理解しておいた方がいいと思います。真の意味でスポーツをささえる職業と言えるでしょう。とはいえ、ATという職業はフィールドの最も近くで選手をサポートでき、喜びも悲しみも分かち合える素晴らしい醍醐味もあります。まずはATの働き方を実際に見学・体験していただくことが一番だと思います。