“RKU人”をつくる食

流通経済大学の教職員や学生・アスリートの
食生活、食エピソードをお伝えします。

“RKU人”をつくる食

元トップトライアスリート田山寛豪先生の「食」へのこだわり 2022.03.03

アテネ、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、と五輪大会に4回連続出場する偉業を果たした田山先生は、言わずと知れたトップトライアスリートでした。


トライアスロン日本選手権では、11度の最多優勝記録を有する先生は、国内敵無しの最強トップアスリートです。先生は、茨城県出身であるだけでなく本学の卒業生です。そんな本学を誇る先生に「食」のこだわりについて本学のスポーツ健康科学部に在籍する学生がインタビューを行いました。以下にその内容をまとめます。

学生:本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。トップアスリートであった先生にいろいろと質問を準備しましたので、可能な範囲でお答えいただければ幸いです。さて、まずはじめに大事な試合時にこそ、ピークを持っていくために「食」の観点で意識したことはあったのでしょうか?

田山先生:(トライアスロンは1つの試合時間が非常に長い競技種目なので、)エネルギーになるものを入れるタイミングが重要であるということを経験から感じました。学生時代から実業団に入るまではスポーツ栄養学で一般的に言われるように、トレーニング開始前に何かを食べるように努めて、「血糖値を上げてから練習する」ということをルーティーンにしていたが、この理論が一部自身の競技パフォーマンスにそぐわないことに気づきました。(具体的に言うと、)試合時ではないが、普段の練習における場面のことです。練習前のウォーミングアップを開始する際には何も食べないようにする(断食をする)ことで骨格筋中の糖を一時的に空(から)にします。これは、筋グリコーゲンの枯渇状態を作ってあげた後に練習後に糖質を補給することを目的に実施していました。こうすることで筋グリコーゲンがしっかり貯まることを実感していました。つまり、何を食べるかよりは、いつ食べるかを意識した食生活をこころがけていました。

学生:興味深いです。タイミングが大事だということですが、その中でも意識して摂取したあるいは、摂取しないようにした食品や食材はありますか?

田山先生:意識して摂取した食品食材としては、自然のもの、野菜、お肉、魚をバランスよく食べることは当然ですが、意識していました。実際、大学生の頃はスナック菓子や菓子パン等を食べるということもありましたが、オリンピックを目指す為にこの食習慣は必要じゃないと思いました。それからはこういった嗜好品は食べたいとも思わなくなりました。摂取しないように意識的に我慢をしていた訳では無いが、スナックや菓子パンだったり、高カロリーで栄養があまりないものは自然と食べなくなりました。

学生:やはり、日常食は何を食べるか?というバランスも意識していたように聞こえます。今はすでにアスリート生活を引退されて指導者の道を本学で歩まれていると思いますが、食事面で現役時代と変わったことはあるのでしょうか?

田山先生:大きな変化としては、毎日お酒を飲むようになりました。現役時代には、お酒は(嗜好品の一つであり、)悪いものだと思っていたので一切飲みませんでした。現役時代は企業に所属していたので会社員として勤務していましたが、上司に誘われた飲み会でもお酒を飲みませんでした。実際にそこをこだわることで、大会後にライバルたちがお酒を飲んでいる姿を見ましたが、そこで「勝ったな。」と思っていました。嗜好品を自分は飲んでない、だから競技力も落ちていない!と思うことでアスリートとして心理的にもモチベーションを維持できていました。いわれてみれば何を食べるか、ということにこだわっていましたね。お酒を飲むよりは、別の競技力や体のためになるもので栄養を補給しようとしていました。

学生:少し話は戻りますが、現役時代に「筋グリコーゲンを枯渇させてから糖質を補給する」という話がありましたが、他の栄養素については何かこだわりはあったのでしょうか?例えば、トレーニング後迅速にプロテインを摂取すると筋肉を大きくすることに効果的であることを学びましたが、練習後にタンパク質摂取量をこれくらい摂るなどのこだわりはありましたか?また、サプリメントを補給する習慣はあったのでしょうか?

田山先生:現役時代にプロテインは一切飲んでいませんでした。サプリメントやプロテインは一切頼らずに選手生活を送っていました。練習がハードで結構ダメージを大きいなと感じた時は極力普段の食生活で「肉」を摂ることを意識していました。今、選手時代を振り返って思うのは、どんなにいいプロテインやサプリメントを摂っていてもそれを吸収してくれる腸内環境が整っていなかったら、身にもならず、ただ飲んで満足するだけって感じがします。サプリメントを取るよりは、腸内環境を整えることができる食事を普段の日常食から摂るようになれば、疲れは感じにくくなることを実感していました。プロテインだから、とか飲めば強くなるものに惑わされてはいけないと思います。

学生:普段の食生活が重要ということですね。実業団時代のお話を聞かせていただきたいです。栄養士などの食生活のサポート体制を教えてください。

田山先生:実業団時代を振り返ると「食」 の面で万全なサポート体制でした。栄養士も着いていたし、合宿に行くと栄養士が来てバランスのよい料理を作り、提供してくれていました。一方で、(どこにも所属せずに)プロとして独立して活動している時は栄養士を自分で雇わないといけない状況でした。でも実際に資格を持つ人を雇うって経済的な負担も大きくて1人のアスリートがそれを行おうとすると非常に難しい問題です。同時にトレーニングによる疲労を緩和してくれる治療(トレーナー/マッサージ)の資格を有する人も雇う必要がありましたので、栄養士か治療師のどちらしか雇えないとなると、治療師(トレーナー)の方を呼んでしまうという感じでした。「食」が大事なことは重々わかっていたのですが、そういった事情で雇えないという状況も困っていました。

学生:なるほど。トップ選手でもどこに所属しているかで「食」へのケアできる体制が異なる環境だということを知ることができました。本日はお忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。最後にトライアスロンやスポーツをしている方々に向けて、トップアスリートとして活躍された先生だからこそできるアドバイスやメッセージをお願いします。

田山先生:はい。アスリートだと競技によっては体重が少しでも変化すると競技パフォーマンスに大きな影響を与えることは自身もわかっています。しかし、だからと言って極度のダイエットは良くないです。アスリートで太るのを気にしている人は、食べることについて極度の制限をせずに、補給したい分食べて、食べた分は活動で消費すればいいと思います。または食べる物に工夫をすることもいいでしょう。私の選手時代には、どうしてもお腹がすいた時はグレープフルーツを食べていました。大きいのを1つ食べると酸味と食感でお腹が持つような気がしましたよ。自分の中で体重コントロール(減量したい)と思った時は”グレープフルーツ”でしたね。そういった「食」を楽しみつつ、自身の競技のためになるコントロールをすることが大切です。

学生:ありがとうございました。

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先生からお話しを頂いた際に印象的だったのは「(プロテインを含む)サプリメントに頼らずに選手生活を送った」という内容でした。2010年に発表された国際オリンピック委員会のスポーツ栄養に関する声明*には、アスリートがトレーニングや試合に耐えうる十分なエネルギーを得るには普段から入手可能な食材をもとに十分な炭水化物、タンパク質、脂質、そして微量栄養素(ビタミンとミネラル)を補給できる食生活をおくればよいということが明言されています。また、その後2017年にサプリメントは品質保証が十分な製品であっても、故意でないドーピング違反のリスクを完全に排除はできないとし、あくまでも慎重に慎重を重ねてリスクが低く健康やパフォーマンスへの利益が見込める場合にのみ使用を限るべきとの声明が示されています。特に若い選手は、「勝つ」「強くなる」という結果論に囚われて必要な栄養素を摂取可能なサプリメントへ知識を有さずに手を伸ばすことがあるが、「なぜそれを必要とする状況なのか?」ということを考えることが大切であり、今まさにそういった点でのアスリート教育が必要とされています。それを公式声明として出される以前から実行し、かつトップアスリートとして活躍されていた田山先生の強さが素晴らしいことだと感じるとともに本学出身者であることを誇らしく思いました。後進の育成指導に従事されている先生には、真の意味で「強い選手」の育成に励んでいただる指導者であると「食」の観点からも感じることができました。

 

*参考webページ:

IOC(国際オリンピック委員会)

①https://stillmed.olympics.com/media/Document%20Library/OlympicOrg/IOC/Who-We-Are/Commissions/Medical-and-Scientific-Commission/EN-IOC-Consensus-Statement-on-Sports-Nutrition-2010.pdf?_ga=2.52794600.1714391839.1644367808-amp-BxPegJTFOam_X7bcIikPBg

②https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/images/supplement/IOC%20Medical%20and%20Scientific%20Consensus%20Meeting%20on%20Supplements.pdf


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