“RKU人”をつくる食

流通経済大学の教職員や学生・アスリートの
食生活、食エピソードをお伝えします。

“RKU人”をつくる食

東京五輪体操女子日本代表監督【田中光先生】の食に対する考え 2022.02.17

2021年夏に開催された東京五輪で体操女子日本代表の監督を務められた本学スポーツ健康科学部教授の田中光先生です。


先生は現役時代に1996年アトランタ五輪に出場し、日本が世界に誇るトップアスリートとして活躍されました。平行棒において懸垂前振りひねり前方かかえ込み2回宙返り腕支持:難度Fを披露し、オリジナル技「タナカ」と認定されました。指導者としての実績として、東京五輪では団体総合が5位とメダルに手が届かなかったものの、個人種目別(ゆか)で村上茉愛選手が銅メダルを獲得し、体操女子の個人種目で日本勢初のメダル獲得を日本代表の強化本部長として先導された歴史的な記録を残されました。引き続き次期パリ五輪でも体操女子日本代表をリードされることが決定した田中先生は、体操競技に臨む【食】や【トレーニング】についてどのようにお考えであり、現役時代を過ごしたのか?について、本学スポーツ健康科学科3年生の学生4名がインタビューをした内容をまとめたものを掲載します。

学生が田中先生にインタビューをし終えた後に抱いた率直な感想は、「体操選手は、食生活に対して気を遣う以上に体操の練習に対する姿勢が厳しい印象を受けました。」ということでした。

体操競技のパフォーマンスを意識する際に課題となるのは【体重コントロール】です。体操選手は演技の中で逆さになったり、自身の体重を両腕で支える必要があり、繊細な重心移動を意識しなければならない競技です。体重が少しでも増えると演技パフォーマンスに影響が出るために現役時代の田中先生は、食事を食べ過ぎないようにするということを意識した食生活を送っていたそうです。体重コントロールのために1日3食を摂らず、特に朝食を意識的に欠食するということもしていたそうです。ただし、いつも欠食するばかりでなくもちろん朝食を摂る時もあったようです。ただし、朝食を摂る時は炭水化物ばかりではなく、タンパク質や野菜をしっかり摂取することを意識しておられたそうです。日常的にはそのような朝食への意識をしていましたが、試合前の勝負飯に【肉(牛・鶏・豚)】をよく食べていたそうです。

体操の選手にとってパフォーマンスレベルを向上させるためには体重コントロールが重要ではありますが、格闘技の階級制種目のような「〇kgにしなければならない」という一般的な目安はなく、重過ぎず軽過ぎず選手個人が動きやすい(最大のパフォーマンスを発揮できる)体重をキープすることが重要だそうです。田中先生は、現役時代にご自身の最大のパフォーマンスを発揮できるであろう体重というものを把握し、それをキープするようにしていたそうです。体操選手の体脂肪率平均値は、5〜7%だそうです。体重の意識のみならず、体脂肪率を低く保つために体組成を意識する必要もあります。しかし、現役時代の田中先生の食生活を振り返ると好きなものを食べる食生活を送っていたとのことです。このように体重や体脂肪率のコントロールがパフォーマンス向上に直結する競技であることが明らかである一方、現実として食生活の指導をしてくださる栄養士の先生のアドバイスに素直に従うという選手もいないというのが現実のようです。というのも、選手であったご経験を踏まえて振り返ると、普段のトレーニングから心身ともにストレスの溜まりやすい競技であるため、食生活を含めたトレーニング以外の日常生活に対し細かいルールを設けず無理のない生活を送ることも競技力向上には重要だというご意見でした。ストレスのある状態で練習や試合に臨めば自身の体に向き合うことができず、大きな選手生命をも脅かす怪我を招きかねないことから普段の生活でメンタルに負担をかけないように心がけることも大切だということのようです。

現役時代、田中先生の体操競技トレーニング頻度は、週5日だったそうです。かつ、かなり高強度のトレーニングを詰め込んで実施していたようです。具体的には、ウォーミングアップにジョグ等の有酸素運動と、自身の体重を重りとして負荷をかける体操実践による筋力トレーニングを実施していたそうです。その他として、練習以外の日常生活で身体活動をともなうような時間の使い方はせずに、外出は車を使い、極力歩かないようにするという努力もしていたそうです。体を完全に休ませる休養が重要だという考えからだそうです。一方で現役を引退してからは現役時代の生活を送るのでは健康的にも望ましくないと考え、習慣的にジムへ行き積極的に走ったり、フリークライミングをする、トレッキングするなど体操とは異なる種類のスポーツで体を動かす生活も送るようになったということです。

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インタビュー内容から、競技特性上ご自身の心や体を理解し、最大限のパフォーマンスを発揮することができる状態についてトップアスリートだからこそケアやコントロールの必要があり、それを実践し、現役時代も監督である現在も実践されているのは素晴らしいと思いました。何よりも現役時代と引退後でご自身に必要な活動量に変化をつける必要について理解し、実践されているということはすべての現役を引退したアスリートが実践できるところではなく、ご自身の体や体調を客観視できているから実践できていることなのだろうと感じました。また、普段からメンタル維持が課題であることが体操競技の特徴であるがゆえに食生活指導を必要とする選手がいた際に、単に健康や一般論から【望ましい食生活】を押し付けるのではなく、気を遣いすぎずに実践できる食生活改善法を提供するために食生活指導側が選手に対してケアできるように接することも重要なのだなと再認識した機会となりました。個人種目であってもケアするスタッフの振舞いが選手のパフォーマンスに影響を与えるという点では個人競技ではあるもののチームプレーの競技かもしれないとインタビュー内容から見えてきて、非常に興味深い内容でした。


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